そろそろ地域によっちゃあ、稲刈りも始まって。
ススキの穂も、誰かさんたちの尾っぽみたいに、
弾けての ぽあぽあしてきて。
枯れ葉がかさこそ、道の端、
内緒話してるみたいに囁きかけるから。
たかとこ、懸命に駆けてた筈が、
あややぁ?って ついつい足が止まるの。
「くうちゃん?」
やっぱり一緒に駆けていた、
小さいお兄さんの瀬那くんが、あれれぇ?と、
こちらはそんな くうちゃんの様子に立ち止まれば。
自分よりも少し遅れていたおとうと弟子さんたら、
何にか気を取られたか、
踏み固められた畦道の端、
小さな身を丸くして、よいちょと屈み込んでおいで。
「え〜っと…。」
まだ小さいから集中が途切れるのもしょうがないのかな。
でもでも、今は急いでるのにな、と。
ちょっぴり困ったように、
狩衣にも似た型、水干様式の厚衣の胸元を押さえ、
えっとうっとと、どう言って急がせようかと案じておれば、
「せ〜な、おやかまさま、こっちって。」
ぴょいと立ち上がった仔ギツネさん、
その手の中へ、小さな小鳥を抱えており。
あれれ? そんなのがいたの?と
眸を見張るセナくんの驚きが出切らぬうち、
仔ギツネ坊やの手の中に大人しくしていた、
小さな小鳥がすうっと色彩を失い、
あっと言う間に白地の紙細工に戻る。
「あ、式神だったの?」
術師が自身の念を込め、それを精気の代わりにし、
伝言を抱えて飛ぶ紙の鳥や
子供のように動き回る
小さな土人型を操る術もまた“式神”といい。
どうやら、彼らが加勢に向かいかけていた先から、
彼らのお師匠様が寄越した代物だったらしくって。
「こっちって?」
「んと、今はあっち。」
手ごわい大妖の気配が不意に屋敷の近くで立ったのへ、
何処のどいつだ、いい度胸してやがるぜと。
何でそんなに威勢がいいのか、
答え、少々暇だったからという、
お館様こと神祗官補佐様。
丁度 弦を張り直していた封魔の弓と矢を引っ掴み、
そのまま飛び出してった大胆さよ。
淡い金の髪に色白な痩躯という、一見儚げな風貌を大きく裏切って、
特に術を唱えずとも、一息の跳躍だけで、
漆喰塗りの外囲いの塀の上までを軽々と飛び上がれてしまう。
そんな体力自慢でもあるお師匠様にやや遅れつつ、
封印の咒弊や破魔矢の補充を抱え、
待って待ってと追っていたお弟子の二人。
そんな彼らだろうと察してか、
飛び出してった最初の気配だけを追って来たらば、
見当違いな所につくぞと、
そんな伝言をわざわざ送ってくださったあたり、
“余裕がおありなんだなぁ。”
そしてそして、
こんな好天の昼下がりに、
まさか、おっかない物の怪退治にと
小さな坊や二人が駆けているとも知らないで、
「おや、あれは端っこ屋敷の坊やたちじゃあないか。」
「おお、そうだそうだ。」
畦道からはやや離れたところで、稲を刈ってたおじさんたちが、
よいせと腰を伸ばしつつ、
かわいらしい追いかけっこを眺めておいで。
いい陽気だからな、そうだな、
小さい子供は気楽でいいわなぁ、ああそうさな、と。
今年の結実、豊饒の喜びを刈り取る人もあれば、
「てぇーい、とっとと往生せんかっ!」
「蛭魔、矢を無駄にすんなっ。」
狩衣の大袖ひるがえし、
神聖な封魔の弓をかざしては、退魔の矢を放ってという、
獅子奮迅の戦いっぷりで。
奈良の大仏殿へと建立された巨大な仏像もかくやという
大きな大きなカミキリムシの蟲妖を相手にしていた陰陽師様や、
「俺に意見するたぁ、いい度胸だ式神のくせによっ。」
「判った判った、後で幾らでも殴らせっから。」
いちいちこっち向いてたら、
あの大顎のハサミで攻撃されっぞ、と
懸命に注意を喚起しつつ。
陰陽師殿の頭越しに大太刀振り上げ、
咬み潰すぞと落ちて来た大妖の大顎をがっしと受け止めと、
大忙しな蜥蜴一門の総帥様がいたりもする。
そんなこんなな秋の一日、
何にも知らない、知る由もない稲穂の群れが、
一番落ち着いての、さわさわ・ざざあと揺れてたそうな。
〜Fine〜 11.10.14.
*余裕があるんだかないんだか(苦笑)
秋も大忙しらしい術師のご一家でした。
事情が判らない人から見れば、
乙に澄ましているばかりで呑気なもんだと、
知行地からの産物が届いてのそれだけで、
余裕で暮らしてるように思われてるかもですね。
まま、それはそれで退屈だから
御免こうむるだろう おやかまさまでもありましょうが。
めーるふぉーむvv 

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